この物語はフィクションであり、・・・・・

第12話 クラシック音楽はスキですか?




 ちょっと聞くけど、チョークで黒板を擦ったり、ガラスを金属で擦ったときに出る、『キー』って音、苦手かい?


 好きじゃないけど、特別苦手っていうわけでもないな。


 そーか、残念だけど多分それじゃ、ダメだな。


 何だよ、いきなりダメって。


 お前には、クラシック音楽はわからないだろうってこと。


 別にわからなくっても良いけど、『キー』音となんの関係があるんだよ。


 白状すると、俺も以前は『キー』って音なんて、特に気にならなかったよ。
 だけど、最近ものすごく耳障りになってることに気づいたんだ。


 頭でもやられたのか?


 お陰様で、頭は今のところ大丈夫だと思うよ。
 そうじゃなくて、英語が聞きとれるようになるに従って、『うるさく』なったみたいなんだ。


 気のせいじゃないの?


 それじゃ聞くけど、ラジオ放送(AM)のAFN、昔はFENだけど、あれ聞き取れる?


 まさか。 俺には、霧の彼方で早口でボソボソ何か喋っているようにしか聞こえないよ。


 そうだよなあ。俺もそうだったからわかるよ。


 で、最近はわかるようになったの?


 全部とは言わないけどね。でも、霧はかかってないし、その早口が苦にならなくなったよ。


 あの霧は、晴れるんだ!?


 努力次第でね。それで、その副産物として、『キー』音が耳障りになったみたいなんだ。


 何が、副産物なの?


 意味がある音として認識する音の周波数帯域が広がったこと。


 耳が良くなったってこと?


 言い方としてはそうかも知れないけど、耳じゃなくて、ある意味『頭』だね。


 えっ! 頭が良くなったの?


 残念ながら良くはならない。
わかりやすい表現にすると、久しぶりに耳掃除した後のようになったって感じ。


 すっきり聞こえるようになったってことか。


 そういうこと。
今の標準語と言われる日本語は、『1500Hz』位までの帯域情報で、理解可能らしいんだ。
意思の疎通というのは、人間にとって非常に重要な機能だよね。
日本人の場合、その帯域までわかれば良いわけだから、『それ以上の高音域の音は認識する必要がない』、と脳が自動的に判断してるというのが一般的みたいなんだ。


 そうなの?


 というより、無駄な作業になるので、雑音と判断して自動的に『マスキング』し、脳に対する負担を軽くしたほうが合理的でしょう? 頭を使うと、エネルギーも消費するし。
『聞こえているけど、聞こえない』。 可聴音ではあるけど、その音に意味を感じないようにしてるんじゃないの? 最近流行の『省エネモード』にしてるんだと思うよ。


 その『マスキング』ってどんな感じ?


 例えば、騒音の中にしばらくいると、それがだんだん気にならなくなるでしょ?
あと、電話に熱中すると、周りの音が一時的に聞こえなくなるとか、ない?
それらの音レベルは下がるわけでもないし、音波として鼓膜を振動させているはずなのに、あまり、あるいは全く聞こえなくなるでしょ?
臭いも同じだよね。特定の臭いがする所に長くいると、それを感じなくなってくるよね?


 確かに、そういうことあるなあ。


 脳っていうのは、持続的に入ってくる情報に対しては、その重要度を下げるような仕組みになってるんじゃないの?
 周囲の状況の変化を的確に認識するためには、入力情報を選択的に扱わないと、重要度の低い情報の中に、本当に重要な情報が埋もれてしまう可能性が出るでしょう?
 情報収集の最終的な目的は『自己防衛』だろうから、最も注意しなくてはいけないことは、『何か違いが発生したか?』で、『情報不変=安全』と判断するんだと思うんだ。
 高速道路でも、ずっと直線が続くと運転手の気が緩んで事故が起きる確率が増えるんで、意図的にカーブを設定してる所もあるらしいよ。


 それで。


 英語に限らず、他の言語は日本語よりもっと広い周波数帯域を使って話してるようなんだ。
 例えば、日本人には風流に聞こえる虫の音だって、外人には騒音だって話あるでしょ?


 そういえば、聞いたことあるなあ。


 日本人にとって『虫の音』は、言語として認識すべき周波数帯域を超えているから、単なるBGMのように聞くことが出来ると思うんだ。
 だけど、外人にとっては、言語として認識すべき周波数帯域内の音だから、脳はその音に刺激されて活動を開始する。でも、言語では無いわけだから無意味な活動をさせられ、結果的に ウルサイ → 騒音となるような気がするんだ。


 ふーん。


 でね、本題のクラシック音楽だけど、今まで何となくコモったように聞こえてたんだ。
 特にオーケストラ演奏は、それぞれの演奏パートが分離せず、団子状に聞こえるてね。
 録音が良いと言われたCDも色々買ったんだけど、そんなに大きな違いがないんだ。
 どうも全体に、パッとしないっていうかな?  それが、最近違うんだよ。


 どう?


 お前は知らないだろうけど、有名なクラッシックの曲にベルリオーズの『幻想交響曲』っていうのがあるんだ。


 ホントに有名なの? ベートーベンやモーツアルトなら聞いたことあるけど。


 だから、『知らないだろう』って言ってるじゃない。 まあ、聞きなよ。
 この前、そのCD、『ブーレーズ』っていうお前の知らない指揮者が、『クリーブランド交響楽団』っていうのを指揮したのを久しぶりに聞いたんだ。
 いやー、初めて大きな感動を味わいました。
狂気の世界が伝わってくるし、金管楽器は正に『咆哮』します。


 俺には、何だかわからないけど。


 その後に聞いた、諏訪内晶子がチャイコフスキーコンクールで優勝した時のCDもまるで別物だよ。
ダイナミックレンジが広い、ものすごく力強い見事な演奏でした。
 それまで、音の角が丸く聞こえていたのに、それが鋭くなって、まるでオーディオシステム一式をそっくり入れ替えたみたいなんだ。


 お前の言うことが、ホントだとするよな。


 ホント。


 なんで、音楽と関係があるの?


 西洋の音楽に限らないけど、外国の音楽はすべて今の標準語を話す日本人が『マスキング』して、というかされている部分が、普通に聞こえてる人たちが作っているんだ。
 で、善し悪しは別にして、その人たちに聞こえてる音がはっきり聞こえない日本人に、その音楽の善し悪しを判断する資格があるのかな?ってことさ。


 信憑性があるように聞こえるね。でも、海外で活躍してる日本人の演奏家は沢山いるよ。


 あのね、だれでも幼少時は、音を意味のあるものとして認識できる周波数帯域が広いらしいんだ。
有名な演奏家は小さいときから、必ず何かの楽器の練習をずっとしてるでしょ。
 演奏家にとっては『発生音』が命だから、常に真剣に音に向き合ってるよね。
 そうすると当然ながら、脳が『マスキング』するような余裕はできないから、可聴範囲の音全てを意味のある音として捕らえてるんじゃないかな。
ところが普通の人間は、主として帯域の狭い『日本語』しか真面目に聞かなくなるから、脳が気を利かせて『マスキング』するのかも知れないよ。
まあそうすると、日本の聴衆の多くは演奏家と同じようには聞けていないのに、感動の拍手を送っていることになるんだけどね。


 じゃあ、普通の日本人は基本的にみんなダメってことか?


 プロじゃなくても、小さい頃から楽器演奏している場合は、違うんじゃないかなあ?
 また、大人になってからでも楽器演奏を真面目にしてる人は、ある程度は帯域が広がるような気はするんだけど。


 音に対する、取り組みの問題?

 
 なんとなく、そういう感じがするんだけど。 あとは、『方言』ネイティブで話せる人。
東北弁に、『が』と『ぎ』の間の音に『ゃ』を付ける音があるっていう話を聞いたことがあるんだ。これは一例だから、それ以外の音がいくつもあるんだろう。
 つまり、『方言』を話せる人の方が、明らかに『マスキング』開始周波数が高いはずだよね。
 君のような『シティ・ボーイ』より、地方出身の人の方が、相対的に潜在能力が高いんじゃないかと。 『聞き取り能力』だけの問題だけどね。


 そんな気もしてきたよ。 でも、こんなこと俺に話して何か意味あるの?




 自己満足。



Comment0
PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する